行政書士は3年以内に9割が廃業するのか?データで検証する「9割廃業」説の真実
「行政書士は3年以内に9割が廃業する」――。資格試験の受験生やこれから独立を考える士業にとって、こうした情報は気になりますね。東京商工リサーチが企業情報の調査票を送付する時期になると、廃業・倒産データが話題になりやすい傾向があります。果たしてこの言説はどこまで正しいのでしょうか。公的データをもとに検証してみました。
東京商工リサーチから届いた「企業情報調査票」の封筒。全国の企業に定期的に送付され、この回答データが倒産・廃業統計の基礎資料となる。
「行政書士は3年以内に9割が廃業する」という話は本当ですか?
結論から言えば、この説を裏付ける公的データは存在しません。総務省の統計をもとに計算すると、行政書士の年間廃業率(登録抹消率)は約3〜4%にとどまっています。
総務省が公表した令和6年度のデータでは、年度当初の登録者数は51,619人。このうち、行政書士法第7条(登録の抹消)に基づく登録抹消は2,183人でした。内訳は業務廃止の届出(同条第1項第2号)が1,799人、死亡(同第3号)366人、欠格事由等18人で、自発的な廃業に相当する業務廃止だけに絞れば年度当初の登録者数の3.5%にとどまっています。
この「9割説」は、特定の出典が示されたことがなく、ネット上で繰り返し引用されるうちに定着した、いわゆる「都市伝説」に近いものと考えられます。
行政書士の廃業率は他の士業と比べて高いのですか?
士業間で比較すると、行政書士の廃業率はやや高めに位置するのは事実です。以下は各士業連合会の登録統計から推計した年間の登録抹消率(廃業率に相当)です。
行政書士の廃業率が相対的に高い背景には、参入障壁の低さがある。試験合格だけでなく、公務員の特認制度でも登録できるため、登録者の母集団が大きく、「とりあえず登録してみたが業務が軌道に乗らなかった」というケースが含まれやすい。一方、弁護士や社労士は業務独占の範囲が広く、安定した需要が見込めるため、廃業率が低い傾向にあります。
【図】士業の年間廃業率(登録抹消率)と全業種平均の比較。行政書士は全業種平均(3.3%)と同水準で、突出して高いわけではない。
東京商工リサーチの調査データからは何がわかりますか?
東京商工リサーチ(TSR)は、全国の企業に「企業情報調査票」を定期的に送付し、そのデータをもとに倒産・休廃業の統計を発表しています。2024年の「休廃業・解散」企業は過去最多の62,695件(前年比25.9%増)で、初めて6万件を突破しました。
ただし注意が必要なのは、TSRのデータは法人(会社組織)が対象であり、個人事業主として開業する士業の大半は集計に含まれないという点です。弊事務所(四葉行政書士事務所)も調査票は届いておらず、併設した四葉不動産株式会社にだけ調査票が届きました。士業の「廃業」は、各士業連合会への登録抹消をもって把握するのが正確であり、TSRの倒産統計とは性質が異なります。
TSRのデータで読み取るべきは、日本全体の事業環境の厳しさです。赤字率は48.5%と過去最悪を記録し、サービス業の休廃業は20,111件で全体の32%を占めています。士業もこうしたマクロ環境と無縁ではなく、顧客である中小企業の減少が士業の経営にも波及する構造があります。
なぜ「士業は食えない」「廃業が多い」というイメージが広がるのですか?
いくつかの構造的な理由があります。
母集団の大きさによる錯覚
行政書士だけで約53,000人が登録しており、年間4%が廃業すれば約2,000人になります。この絶対数のインパクトが「廃業だらけ」という印象を生みやすいわけです。
一部の資格予備校や経営コンサルタントによるマーケティング目的の情報発信
「廃業率が高い=正しい対策が必要=当校、当コンサルで学びましょう」という論理は、集客コンテンツとして機能するため、実態以上にネガティブな情報が拡散されやすいといわれています。
SNSでの体験談バイアス
廃業した人が発信する体験談はインパクトが強く拡散しやすいのですが、安定して事務所を運営している多数の士業は、わざわざ「順調です」とは発信しません。結果として、ネット上には失敗談が偏在し、全体像がゆがんで伝わります。
士業の将来性をどう考えればよいのですか?
データを冷静に見れば、士業の廃業率は全業種平均(中小企業庁発表で3.3%)とほぼ同水準か、弁護士・社労士は平均を大きく下回っています。「士業だから食えない」という一般論は、データ上の根拠に乏しいといえます。
一方で、AIの進化や人口減少による顧客基盤の縮小は、士業の事業環境を変えつつあるのも事実です。中小企業庁の2025年版白書では、全業種の休廃業・解散が過去最多を更新しており、士業の顧客である中小企業そのものが減少傾向にあります。
重要なのは、「士業は安泰か危険か」という二項対立ではなく、個々の事務所がどのような専門性・サービスを提供できるかでしょう。登録者数が増加傾向にある社労士(市場成長率+169.8%、2012〜2021年)や行政書士(同+102.1%)のように、市場そのものが拡大している分野もあります。「廃業率が高い」という漠然とした不安に振り回されるのではなく、データに基づき、顧客に向き合って自分の立ち位置を見極めることが、士業として生き残る第一歩ではないでしょうか。
【参考データ・出典】
総務省「行政書士制度」
総務省「表1:行政書士の登録状況(令和6年度)」(PDF)
日本行政書士会連合会「会員数等」
東京商工リサーチ「2024年『休廃業・解散』動向調査」
東京商工リサーチ「『士業』の倒産、2年連続最多」(2025年1月)
中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第1部 第1章 第8節
伊藤塾「統計データで実証!士業の将来性ランキング」
伊藤塾「行政書士の廃業率」
日本税理士会連合会
※本記事の廃業率は、各士業連合会が公表する登録者数と年間の登録抹消者数から推計した概算値です。行政書士の数値は総務省「表1:行政書士の登録状況(令和6年度)」に基づきます。統計年度や算出方法により数値が異なる場合があります。
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