申込開始から「わずか10日」で締切に──特定技能1号で働きたい外国人が知らないと損する、日本語テストの落とし穴
春は、日本で就職する外国人のみなさんにとって特別な季節です。3月の卒業、4月の入社──ところが、日本で働き続けるために絶対に欠かせない「在留資格」と「日本語能力の証明」をめぐって、ここ数年、現場では今までになかった事態が起きています。
「申込みをしようとしたら、もう締め切られていた」
外国人が求人に応募する際に必要な、日本語能力の証明となる日本語能力試験(JLPT)の申込みが、開始からわずか1週間〜10日で定員に達してしまうのです。
本コラムでは、特定技能1号として日本で就労を希望する外国人本人と、その採用を検討している企業担当者の双方に向けて、千葉県松戸市の行政書士・若園しのぶ先生に「現場で本当に起きていること」と「失敗しないための実務知識」を伺いました。外国人雇用や留学生の就職活動に関わるすべての方の参考になれば幸いです。
この記事の要点(30秒サマリー)
- 特定技能1号で日本就労には日本語能力の証明(A2/N4相当)が必須
- 証明手段はJLPT(年2回)とJFT-Basic(年6回前後)の2つ
- 2026年JLPT第1回はN4が9日・N3が10日で定員締切(公式締切4/8の前に終了)
- JLPTを逃したらJFT-Basicへの切り替えが現実的な選択肢
- N2に高望み→不合格→証明書ゼロのリスクに要注意(複数レベル同時受験は不可)
- 学歴次第で「技人国」も選択肢だが、要件不充足での無理な取得は不法就労リスク
Q1. そもそも「特定技能1号」とは、どのような在留資格ですか?
A. 「特定技能1号」は、深刻な人手不足が認められた特定の分野で、即戦力となる外国人を受け入れるための在留資格です。介護、建設、外食業、農業、自動車運送業など、現在は16の特定産業分野で認められています(2024年に4分野が追加されました)。
主な特徴は次の3点に整理できます。
- 大学・専門学校(専門士)卒業でなくても取得を狙える「現実的な選択肢」
- 在留期間は通算5年まで(家族の帯同は原則できない)
- 取得には「技能評価試験」と「日本語能力の証明」の両方が必要
「『大学を卒業していないから日本では働けない』と諦めてしまう留学生さんがまだ多いのですが、そんなことはありません。特定技能1号は、ご自身のスキルと希望に合った職場を見つけるための、しっかり整備された道です。だからこそ、要件を正しく理解しておくことが大切なんです。」
制度の詳細は、出入国在留管理庁の公式ページで確認できます。
Q2. 特定技能1号で求められる「日本語能力」はどのレベルですか?
A. 多くの分野で求められているのは、「A2相当」または「N4相当」のレベルです。これは、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)と日本語能力試験のレベル区分を共通の物差しに合わせたもので、内容としては──
ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力水準に達していること
を意味します。
もっとも、これはあくまで「最低ライン」です。介護分野では「介護日本語評価試験」、自動車運送業分野ではバス・タクシーに関してはN3 以上など、分野によっては上乗せ基準が設けられています。
「お仕事の現場で実際に使う日本語は、生活会話よりも一段階むずかしいことが多いんです。N4を取れば終わり、ではなく、入社後も日本語の勉強は続けてほしい。それが結果的に、ご自身のキャリアアップにつながります。」(若園先生)
Q3. 日本語能力を証明する試験は何種類ありますか?どう違うのでしょうか?
A. 特定技能1号で日本語能力の証明として認められているのは、以下の2種類です。
- JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)
- JLPT(日本語能力試験)のN4以上
2つの試験の主な違いは次のとおりです。
- 受験回数
- 判定方法
- 受験料
- 申込みやすさ
- こんな方に向く
ひと言で言えば:JLPTは「年2回・安価・人気で早期締切」、JFT-Basicは「年6回・高め・余裕あり」。JLPTを計画的に取れる人はJLPT、それ以外はJFT-Basicが基本戦略です。
公式情報の入口はこちらです。
→ 国際交流基金「日本語基礎テスト(JFT-Basic)」公式
Q4. JLPTの申込みで「定員締切」が起きていると聞きました。本当ですか?
A. 残念ながら本当です。これが、若園先生が今、最も声を大にして伝えたいポイントです。
2026年の実例を見てみましょう。
第1回試験(2026年7月5日実施)
- 申込開始:3月17日
- 公式の申込締切:4月8日
- 実際は、N4が3月26日(開始から9日)/N3が3月27日(開始から10日)に定員到達で締切
- 申込開始:8月17日
- 公式の申込締切:9月7日17時
- 過去の傾向から、N3・N4は早期に締め切られる可能性が極めて高い
「『試験は12月だから、申込みは秋でも大丈夫だろう』と思っていると、申込ページにアクセスしたときには受付が終わっている──そんなご相談が、本当に多いんです。申込み開始日にすぐ、その日のうちに申し込む。それくらいの気持ちでいてください。」(若園先生)
近年の受験者数の急増は、特定技能制度の拡大と無関係ではありません。日本で働きたい人が増え続けている──その「うれしい現象」の裏で、申込みの早期締切という新しい現実が生まれています。
Q5. JLPTを逃した場合、どうすればよいですか?
A. 答えは、「JFT-Basicに切り替える」です。
JFT-Basicは年6回程度の受験機会があり、JLPTを逃しても就職活動のスケジュールに合わせて受験計画を組み直せるのが最大の強みです。
ただし、いくつか注意点があります。
- 受験料がJLPTよりも高めに設定されている
- こちらも定員制のため、締切間近はオンライン申込みがしづらくなる
- 判定は「A2相当」かどうか。これは特定技能1号の要件を満たすが、それ以上のレベル(B1など)の証明にはならない
「『JLPTがダメだったから、もう諦める』ではなく、『じゃあJFT-Basicに切り替えよう』と前向きに動ける方が、結果的に早く就職を決めていらっしゃいます。情報を持っているかどうかが、本当に大きな差になるんです。」(若園先生)
Q6. JLPTで「N2に挑戦して落ちる」のは、なぜリスクなのですか?
A. JLPTには、知っておくべき重要なルールがあります。
JLPTは、複数レベルを同じ日に同時受験することができません。
つまり、1回の試験につき、出願できるのは1レベルだけ。「N2を狙ってダメなら、その下のN3でカウントしてもらう」ということができないのです。
若園先生のもとには、こんな相談が来ます。
「『高い報酬の仕事に就きたい』『ホワイトカラーの仕事がしたい』というお気持ちは、若い方なら自然なものです。だから挑戦してN2を受ける──その気持ちは応援したい。ただ、結果が不合格で、しかも就職活動のタイミングで『日本語能力を証明する書類が手元に何もない』状態になってしまうケースが本当に多いんです。これは、ご本人にとってあまりにつらい状況です。」
若園先生のおすすめする現実的な戦略は、次のようなものです。
- まずは確実に合格できるレベル(N4・N5)でJLPTを取得し、書類を1枚確保する
- 就職を決め、安定した収入と生活基盤を作る
- 働きながら次の試験でN3・N2へとステップアップしていく
Q7. 特定技能以外の在留資格も考えるべきでしょうか?
A. ご自身の学歴・職歴・希望職種によって、最適な在留資格は変わります。
大学(短期大学を含む)卒業、または専門学校で「専門士」を取得している場合は、「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国)という選択肢があります。技人国は転職・職務の自由度が高く、家族の帯同も可能で、外国人留学生に人気の高い資格です。
しかし、若園先生は重要な注意点を指摘します。
「技人国は要件が厳格で、職務内容と学歴の関連性などを審査されます。要件を満たしていないのに、無理に取得しようとする──これが一番危険です。最悪の場合、悪質な紹介業者や事業者のもとで不法就労となってしまうケースもあります。近年、在留資格の審査は法律にのっとって一層厳格に運用されており、ごまかしや嘘は一切通用しません。」
むしろ、自分の現在地から取得可能な特定技能1号でまず日本での就労実績を積み、必要に応じて将来的に「特定技能2号」(家族帯同可・在留期間更新可)や、別の在留資格に切り替えていく方が、結果的に安定した道になることが多いそうです。
技人国の最新動向については、SAMURAIメンバーの髙瀨先生による解説コラムも参考になります。
→ 【QAコラム】「なんちゃって技人国」に政府がメス──2026年4月15日、何が変わるのか
将来的に経営者として日本で活動することを視野に入れている方は、こちらもあわせてご確認ください。
→ 外国人の会社設立と経営管理ビザ|行政書士×司法書士の実務Q&A
Q8. 就職活動を始めるとき、何から手をつければよいですか?
A. 若園先生がおすすめされるのは、「自分の棚卸し→マッチング→受験計画」の3ステップです。
ステップ1|自分を振り返る(棚卸し)
- これまでの学歴・専攻分野
- 身につけた知識・スキル
- アルバイトや実務経験
- 取得済みの資格・検定
- 希望する職種は、特定技能1号の16分野に含まれるか
- 必要な技能評価試験は何か
- 必要な日本語能力レベルは(A2・N4以上で足りるか、上乗せ基準はあるか)
- JLPT・JFT-Basicの申込開始日を事前にカレンダーに登録
- 申込開始日当日に申し込む(特にJLPT)
- 万一に備え、JFT-Basicの代替プランも用意しておく
「ご自身の力をいちばん輝かせられる職場に出会うために、最初の準備を一緒にやりましょう。情報を集めるのは大変ですが、学校の留学生支援窓口、ハローワーク、留学生コミュニティなど、頼れる場所はたくさんあります。一人で抱え込まないでくださいね。」(若園先生)
まとめ──「情報格差」が最大のリスク
外国人雇用と留学生の就職支援の現場で起きていることの本質は、「制度の難しさ」というよりも、「情報がきちんと届いていないこと」です。JLPTが申込開始から10日で締め切られるという事実すら、当事者の多くが知らないまま機会を逃してしまっています。
在留資格や日本語テストでお困りの方、企業の採用担当者の方は、ぜひ若園先生にご相談ください。
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執筆者
若園 しのぶ (わかぞの しのぶ)
行政書士(申請取次)/認知症サポーター(オレンジ協力員)
神戸市出身、千葉県松戸市在住28年。物流会社勤務を経て、松戸で給食調理・有料老人ホーム介護・小児科クリニック受付など暮らしの現場で長年働いた経験を活かし、2025年に行政書士わかぞの事務所を開業。「終活・相続・遺言・後見」と「帰化・永住・家族滞在・就労系ビザ」など外国人の在留手続きを二本柱とし、地域の方々が安心して暮らすための備えづくりに力を注ぐ。