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家族信託の設定時にする登記の実務|所有権移転と信託の同時申請・信託目録に何を書くか

信託

執筆者: 渡邉貴宏

監修者: 浦松 丈二

読了時間:約8分

信託契約書ができあがったら、次は登記です。ところが、この段階で10年後・20年後の手続きのしやすさがほぼ決まります。分かれ目は「信託目録に何を書くか」。拾う条項しだいで、将来の変更登記や売却の手間が変わるからです。第2回は、民事信託(家族信託)を始めるときの登記申請と、信託目録を設計する勘所を見ていきます。司法書士の渡邉貴宏です。

動画で見る(約11分30秒)

この記事の内容は、信託目録に何を書くかを中心に動画でもご覧いただけます。文字を追う時間がとれないときにもどうぞ。


※ 音声は合成音声(VOICEVOX:ずんだもん/VOICEVOX:四国めたん)です。

モデルケース:75歳の母が自宅と金銭を信託する

まずは典型的な事例から。登場人物は母(甲)と長男(乙)の2人です。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 委託者 | 甲(75歳・母) |
| 受託者 | 乙(50歳・長男) |
| 受益者 | 甲(母) |
| 信託財産 | 金銭、不動産(自宅) |
| 信託の目的 | 甲の安心かつ安定した生活の支援及び次世代への円滑な資産承継 |
| 信託の終了の事由 | 委託者(甲)の死亡 |
| 帰属権利者 | 乙 |

「認知症になっても実家を管理でき、母が亡くなった後は特定の子に承継させる」という代表的な使い方です。信託財産が「預貯金」ではなく「金銭」である点にもご注意を。預貯金債権には譲渡制限の特約が付いているのが通常のため(民法466条の5第1項参照)、実務では金銭を信託し、信託口口座で管理します。

所有権移転と信託の登記は、同時に申請する

信託契約の効力が生じたら、不動産について2つの登記をします。

  • 所有権移転の登記——委託者(甲)から受託者(乙)への名義の変更
  • 信託の登記——「この不動産は信託財産です」という公示
この2つは同時に申請しなければなりません(不動産登記法98条1項)。登記記録上も権利部の同じ区に一つの順位番号で記録されるため(不動産登記規則175条1項)、実務では1件の申請書にまとめます。「先に名義だけ移して、信託の登記は後で」はできません。同時申請でない申請は、補正されなければ却下の対象になります(不動産登記法25条)。そもそも信託の登記をする義務は契約で免除できません(信託法34条1項1号・2項)。第1回でお伝えした「登記の留保」です。

なお、所有権移転は受託者と委託者の共同申請ですが(不動産登記法60条)、信託の登記は受託者が単独で申請できます(同法98条2項)。記載例で受託者に「(信託登記申請人)」と付くのはこのためです。

登記申請書の記載例

法務局は信託の登記の申請書様式を公開していません。次は登記記録例と実務の慣行に沿った記載例で、事案や管轄で書き方は変わります。

| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 所有権移転 及び 信託 |
| 原因 | 令和7年1月6日信託 |
| 権利者 | 東京都調布市×××丁目×番×号
(信託登記申請人) 乙(長男) |
| 義務者 | 東京都新宿区×××丁目×番×号
甲(母) |
| 添付情報 | 登記原因証明情報
登記識別情報
印鑑証明書
住所証明情報
代理権限証明情報
信託目録に記録すべき情報 |
| 申請・提出先 | 令和7年1月6日申請 東京法務局 新宿出張所 御中 |
| 代理人 | 司法書士 渡邉 貴宏 |
| 課税価格 | 金〇円 |
| 登録免許税 | 金〇円 |
| 内訳 | 移転分 非課税(登録免許税法7条1項1号)
信託分 土地 金〇円(租税特別措置法72条1項2号)
    建物 金〇円(登録免許税法別表第一一(十)イ) |
| 不動産の表示 | 【省略】 |

「原因」は信託契約の効力が生じた日、「申請」は法務局へ提出した日です。この例では同じ日ですが、12月29日から1月3日は行政機関の休日で登記所が閉まっているため(行政機関の休日に関する法律1条1項3号)、申請日には使えません。

添付情報は何を出すのか

| 添付情報 | 具体的には | 根拠 |
|---|---|---|
| 登記原因証明情報 | 信託契約書など、信託が成立したことを示すもの | 不動産登記令7条1項5号ロ、別表六十五の項ロ |
| 登記識別情報 | 母が自宅を取得したときに通知された、いわゆる権利証にあたるもの | 不動産登記法22条 |
| 印鑑証明書 | 委任状に押した母(登記義務者)の実印の証明。作成後3か月以内のもの | 不動産登記令18条2項・3項 |
| 住所証明情報 | 名義人となる長男の住民票の写しなど | 不動産登記令別表三十の項ハ |
| 代理権限証明情報 | 司法書士への委任状 | 不動産登記令7条1項2号 |
| 信託目録に記録すべき情報 | 信託目録に記録してもらう内容をまとめたもの | 不動産登記令別表六十五の項ハ |

「会社法人等番号」を挙げる例も見かけますが、これは申請人が法人であるときのものです(不動産登記令7条1項1号イ)。当事者が個人だけの本件では要りません。

登録免許税は2本立て

所有権移転の分は非課税です。委託者から受託者に信託のために財産を移す移転登記だからです(登録免許税法7条1項1号)。課税されるのは信託の登記の分。土地は不動産の価額の1000分の3(租税特別措置法72条1項2号。令和11年3月31日までに受ける登記に適用)、建物は1000分の4です(登録免許税法別表第一一(十)イ)。

課税標準は売買価格ではなく、固定資産課税台帳に登録された価格を基礎とします(同法10条1項、同法附則7条)。

信託目録に載るのは、不動産登記法97条1項の11項目

信託の登記の登記事項は、不動産登記法59条各号に掲げるもの(登記の目的、受付年月日・受付番号、登記原因及びその日付など)のほか、次のとおりです(同法97条1項)。

| 号 | 登記事項 |
|---|---|
| 1号 | 委託者・受託者・受益者の氏名または名称および住所 |
| 2号 | 受益者の指定に関する条件または受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め |
| 3号 | 信託管理人があるときは、その氏名または名称および住所 |
| 4号 | 受益者代理人があるときは、その氏名または名称および住所 |
| 5号 | 受益証券発行信託であるときは、その旨 |
| 6号 | 受益者の定めのない信託であるときは、その旨 |
| 7号 | 公益信託であるときは、その旨 |
| 8号 | 信託の目的 |
| 9号 | 信託財産の管理方法 |
| 10号 | 信託の終了の事由 |
| 11号 | その他の信託の条項 |

このうち8号・9号・10号は、登記官が信託目録に記録しなければならない事項です(不動産登記規則176条1項)。「載せない」という選択肢はありません。申請人の判断が働くのは、これらをどこまで具体的に書くかと、11号「その他の信託の条項」として契約書のどの条項を拾うかです。

判断が分かれるのは11号「その他の信託の条項」

信託契約書には、受託者の権限、報酬、変更や終了の手続きなど、数十の条項が並びます。そのすべてを書き写すわけではありません。11号として何を拾うかに、決まった正解はないのです。

信託目録に記録すべき信託条項の範囲については、登記実務上、明確な取扱いの指針が示されているわけではなく、現状では登記申請人の申請意思に委ねられている。
>
——横山亘『信託に関する登記〔第3版〕』テイハン、2026年、236頁

ここでいう「信託条項」は、97条1項11号の「その他の信託の条項」と同じ言葉です。必ず記録される8〜10号とは別に、11号として何を書くかは申請人が決める。専門家の判断が問われる場面です。

信託目録を設計する3つの視点

視点1 公示とプライバシーのバランス

信託目録は、手数料を納めれば誰でも登記事項証明書として取得できます(不動産登記法119条1項)。第三者に見られて困る情報は載せない、という選別が要ります。

一方で、信託法のルールと異なる「別段の定め」は登記しておくのが実務の原則です。登記がなければ、その存在を第三者は知りようがありません。ただし法令が「必ず登記せよ」と定めているわけではなく、実務の指針です。

視点2 後で必要になる登記から逆算する

97条1項各号の登記事項に変更があれば、受託者が信託の変更の登記を申請し(不動産登記法103条1項)、登記官が信託目録の記録を変更します(不動産登記規則176条3項)。信託目録は将来の登記の出発点です。5年後・10年後を想定して書く必要があります。

視点3 受託者の行きすぎを抑える

「受託者は受益者代理人の同意を得なければ信託不動産を売却できない」といった制限を書いておけば、これに反する申請は登記官の審査を受け、歯止めとして働くことが期待できます。

ただし「書けば絶対に防げる」ではありません。却下事由は不動産登記法25条に限定列挙されており、信託目録と矛盾する申請を必ず却下すると定めた条文はないからです。登記官の個別の判断にゆだねられる部分が残ります。

元登記官が挙げる「書くべきでない」4類型

信託目録に記録すべきでない事項として、元登記官の横山亘氏は次の4つを挙げています(前掲書272〜276頁)。

| 類型 | 内容 |
|---|---|
| ① 違法情報・形式違背情報 | 公序良俗または法令に違反する事項 |
| ② 不明瞭情報 | 公示したことにならない事項(例:「公正証書第○条のとおり」など、記載だけでは中身が分からないもの) |
| ③ 重複情報 | 法令に定められている事項(信託法などですでに定められている内容) |
| ④ 過剰情報 | 信託法上の公示、不動産登記法上の手続効果と結びつかない事項(例:売買代金の支払方法、公租公課の負担など) |

これは法務省が示した基準ではなく、実務家による整理です。もっとも方向性は法令と整合します。申請が登記事項以外の事項の登記を目的とするときは却下事由になり(不動産登記法25条2号)、信託目録に記録されるのは97条1項各号の事項だからです。

「公正証書第○条のとおり」と書くとどうなるか

「令和○年○月○日○○公証人作成第○号公正証書第○条のとおり」と書いて信託条項の記載を省略する例があります。横山氏はこれを「依頼者主義を優先するあまり、第三者への公示という登記制度の本質を見誤った不当な登記」と評しています(前掲書273頁)。同氏の見解であり、法務省の公式見解ではありません。

とはいえ指摘には説得力があります。第三者は登記事項証明書を見ても信託の内容が分からず、公正証書の入手も困難です。これでは公示になりません。第4回で扱う信託終了時の手続きも、信託目録から帰属権利者が読み取れることが出発点です。

条項ごとに見る「登記するか、しないか」

判断の勘所を、4つの条項例で確認しましょう。

| 条項 | 内容 | 信託法のルール | 実務での扱い |
|---|---|---|---|
| A 受託者の辞任 | 受託者は、受益者の書面による同意を得て、辞任することができる | 原則は「委託者及び受益者の同意」。信託行為に別段の定めがあればそれによる(信託法57条1項) | 委託者の同意を外す別段の定めなので、登記しておく |
| B 信託の変更 | 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる | 信託法149条1項と同じ内容 | 法令をなぞるだけなので、登記しないのが一般的 |
| C 善管注意義務 | 受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない | 信託法29条2項本文と同じ内容 | 同上。ただし注意義務を重く・軽くする定めを置くなら(同項ただし書)、登記の検討対象 |
| D 受託者による担保設定 | 受託者は、信託不動産に関し、抵当権等の担保を設定する登記手続等を行うことができる | 受託者の権限は信託行為で制限できる(信託法26条ただし書)。担保設定を直接定めた規定はない | 信託内借入を予定するなら登記を推奨 |

Dの補足です。信託した不動産を担保に融資を受ける「信託内借入」を予定するなら、金融機関から受託者の権限として明記を求められることが多く、登記がないと審査で支障が生じることがあります。ただし取扱いは金融機関により異なります。また、「別段の定めは登記する」「法令と同じ内容は登記しない」という振り分け自体、法令の基準ではなく実務の指針です。

あいまいな条件は、将来の登記で行き詰まる

契約時には気にならないのに、将来の登記で壁になる条項があります。

受益者が判断能力を失ったときは、○○を第二受益者として指定する。

受益者の指定に関する条件は、信託目録の登記事項です(不動産登記法97条1項2号)。この定めがある信託の不動産について受益者が申請人となって権利の変更の登記をするときは、その条件により指定された受益者であることを証する情報が必要です(不動産登記令別表六十六の二の項イ)。「判断能力を失ったとき」では、いつ条件が満たされたかを書面で示せません。「医師の診断により……と判断されたとき」のように、書面で確認できる基準にしておきます。

「受益者の判断能力が低下した時は信託監督人を選任する」という条項も同じです。信託監督人(信託法131条)は97条1項の列挙になく(3号は信託管理人、4号は受益者代理人)、定めは11号として記録されるにとどまります。それでも記録した以上は選任を反映する変更の登記が必要になり(不動産登記法103条1項)、やはり「低下した時」の証明で行き詰まります。法律面だけの確認では、こうした条項は素通りしてしまいます。

まとめ

  • 所有権移転と信託の登記は同時申請です(不動産登記法98条1項)。「移転だけ先に」はできません。
  • 信託の目的・管理方法・終了の事由は必ず信託目録に記録されます(同法97条1項8〜10号、不動産登記規則176条1項)。判断が働くのは、どこまで具体的に書くかと、11号として何を拾うかです。
  • 信託契約書は、法律面と登記面の両方から確認しないと「使えない契約書」になりかねません。
次回は、信託が動き出したあとの登記——売却、受託者の交代、受益者と委託者の変更を取り上げます。信託の登記についてご不明な点は、下記のプロフィールページからご相談ください。

ちょこっと体験談|誰のための信託なのか

委託者が父、受託者が長男というケースで、長男に連れられて高齢の父と一緒に相談に来ることがあります。

その際に注意が必要なのは「誰のための信託なのか」という点です。委託者と受託者2人同時に事務所に来所されると、一見話がまとまりやすいイメージがあるかもしれません。しかし、高齢の父が長男のいいなりになってしまっているケースも少なくありません。

あくまで民事信託は受益者の為の信託です。受託者のみに都合の良い信託(例えば受託者の善管注意義務を軽減させる、受託者が解任されにくくなっている、受託者の報酬が高額であるなど)は受益者の為の信託と言えるのでしょうか。

私は2人一緒に相談に来ても、再度スケジュール調整をし、委託者(=受益者)と私の2人のみで打ち合わせをします。委託者の本心を聞き出すためです。どのような信託を望んでいるのか、長男(受託者)が同席しない場では、父(委託者=受益者)の言えなかった本心が聞けることがあります。

お断り 民事信託は現在も過渡期にあり、法務局・税務署の取扱いは変化します。現場レベルでも取扱いが異なる場合があります。本コラムの内容は、法務局、税務署の統一見解ではありません。最新の情報等をご確認の上、ご検討いただきますようお願いいたします。

参考にした法令・資料

  • 不動産登記法(平成16年法律第123号)22条・25条・59条・60条・97条1項・98条1項・2項・103条1項・119条1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
  • 不動産登記令(平成16年政令第379号)7条1項1号イ・2号・5号ロ、18条2項・3項、別表三十の項ハ・六十五の項・六十六の二の項イ https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
  • 不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)175条1項・176条1項・3項 https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
  • 信託法(平成18年法律第108号)26条・29条2項・34条1項1号・2項・57条1項・131条・149条1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
  • 登録免許税法(昭和42年法律第35号)7条1項1号・10条1項・附則7条・別表第一一(十)イ https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
  • 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)72条1項2号(令和11年3月31日までに受ける登記に適用) https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
  • 民法(明治29年法律第89号)466条の5第1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 行政機関の休日に関する法律(昭和63年法律第91号)1条1項3号 https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000091
  • 横山亘『信託に関する登記〔第3版〕』テイハン、2026年、236頁・272〜276頁

民事信託の登記シリーズ(全4回)

この記事の執筆者

渡邉 貴宏(わたなべ たかひろ)/司法書士・行政書士・宅地建物取引士

多摩トラスト(東京都小平市天神町二丁目22番1号201)代表。認定司法書士・民事信託士として、民事信託(家族信託)と国際相続を専門に扱う。一般社団法人民事信託推進センター マンション支援信託推進委員会 委員。

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