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信託終了時の登録免許税は5倍変わる|帰属権利者が受託者本人の場合の登記手続き

信託

執筆者: 渡邉貴宏

監修者: 浦松 丈二

読了時間:約7分

「信託契約書もできた、登記も済ませた。これでもう安心」——民事信託(家族信託)でいちばん多い誤解です。実際には、信託が終わるときの登記こそ費用の差が大きく、同じ不動産でも登録免許税が5倍変わることがあります。しかもその分かれ目は、信託を始めるときに信託目録へ何を書いたかで決まっていることが少なくありません。最終回は、信託終了時の登記と、税額・手続きを左右する条件を見ていきます。司法書士の渡邉貴宏です。

動画で見る(約11分20秒)

この記事の内容は、登録免許税が5倍変わる分かれ目を中心に動画でもご覧いただけます。文字を追う時間がとれないときにもどうぞ。


※ 音声は合成音声(VOICEVOX:ずんだもん/VOICEVOX:四国めたん)です。

信託が終わるときの登記で、税額は5倍変わる

信託が終わると、信託財産だった不動産は残った財産を受け取る人に引き継がれます。この人を帰属権利者(信託の終了時に残余財産を受け取る人として信託契約で指定された人)といいます。信託終了時の登記は、この帰属権利者が誰かによって大きく2つに分かれます。

  • パターンA:帰属権利者が受託者以外の人(例:受託者は長男、不動産を受け取るのは二男)
  • パターンB:帰属権利者が受託者本人(例:受託者も不動産を受け取るのも長男)
所有権部分の登録免許税は、登録免許税法7条2項が適用されれば不動産の価額の1000分の4(0.4%)、適用されなければ1000分の20(2%)です(登録免許税法別表第一一(二)イ・ハ)。

パターンA:帰属権利者が受託者以外のとき

モデルケースは委託者=母、受託者=長男、帰属権利者=二男。登記記録は次のように動きます。

権利部(甲区)(所有権に関する事項)

| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
|---|---|---|---|
| 4 | 所有権移転 | 令和7年1月6日
第1号 | 原因 令和7年1月6日信託
受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| | 信託 | 余白 | 信託目録第1号 |
| 5 | 所有権移転 | 令和○年○月○日
第1234号 | 原因 令和○年○月○日信託財産引継
所有者 東京都中央区×××丁目×番×号 二男 |
| | 4番信託登記抹消 | 余白 | 原因 信託財産引継 |

信託目録第1号(受付:令和7年1月6日第1号/予備欄:信託抹消 令和○年○月○日受付第1234号抹消)

| 項目 | 記録される内容 |
|---|---|
| 1 委託者に関する事項 | 東京都新宿区×××丁目×番×号 母
委託者変更 令和○年○月○日第1233号
原因 令和○年○月○日変更
委託者 東京都中央区×××丁目×番×号 二男 |
| 2 受託者に関する事項 | 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 3 受益者に関する事項等 | 東京都新宿区×××丁目×番×号 母
受益者変更 令和○年○月○日第1232号
原因 令和○年○月○日変更
受益者 東京都中央区×××丁目×番×号 二男 |

記録例のとおり、所有権移転(第1234号)の前に、信託目録の受益者と委託者を書き換える登記が入ります。登録免許税は次のとおりです。

| 登記 | 登録免許税 |
|---|---|
| 受益者の変更・委託者の変更 | それぞれ不動産1個につき1,000円(別表第一一(十四)) |
| 所有権移転(信託財産引継) | 7条2項が適用されれば不動産の価額の1000分の4、適用されなければ1000分の20(同一(二)イ・ハ) |
| 信託登記の抹消 | 不動産1個につき1,000円。ただし同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受けるときは申請件数1件につき2万円(同一(十五)) |

単位は申請の件数ではなく不動産の個数で、個数×1,000円が申請ごとにかかります。土地1筆と建物1棟なら1件の申請で2,000円、受益者の変更と委託者の変更を別件で出せば合計4,000円です。

税率0.4%が使えるかどうかは、3つの要件で決まる

登録免許税法7条2項は、税率そのものを引き下げる規定ではありません。次の3つをすべて満たすときに信託財産の移転を「相続による移転」とみなす規定で、みなした結果として相続と同じ1000分の4が適用されます。

| 要件 | 条文の内容 | モデルケースでの当てはめ |
|---|---|---|
| 要件1 | 信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であること | 帰属権利者は信託の清算中は受益者とみなされる(信託法183条6項)ため、長男(受託者)から二男(みなし受益者)への移転となり、満たす |
| 要件2 | 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者であること | 母の生前は母が委託者兼受益者、母の死亡後は二男が委託者の地位を承継する——という定めが信託契約にあることが前提。この定めがない設計では満たさないおそれがある |
| 要件3 | その受益者が、信託の効力が生じた時における委託者の相続人であること | 二男は委託者である母の相続人 |

この当てはめの考え方は、国税局が公表している2つの文書回答事例(平成29年6月22日付 東京国税局審理課長回答、平成30年12月18日付 名古屋国税局審理課長回答)に沿ったものです。いずれも所有権の移転の登記についての照会に対する回答であり、次に見るパターンBの登記を対象としたものではありません。

注意したいのは、東京国税局の回答が、委託者の相続人に当たらない者(照会事例では委託者の妹)には特例が適用されない旨を明示している点です。判定の軸は続柄そのものではなく、信託の効力が生じた時における委託者の相続人に当たるかどうかです。内縁のパートナーや法人は相続人になれないため、税率は2%になります。甥や姪は、代襲相続などによって委託者の相続人に当たる場合であれば要件3を満たします。

なお、文書回答事例は照会者の個別の事実関係を前提とした当該国税局の見解であり、申告内容等を拘束するものではありません(いずれの回答文にも明記されています)。

パターンB:帰属権利者が受託者本人のとき

受託者本人が不動産を受け取る場合は、所有権移転ではなく「受託者の固有財産となった旨の登記」をします。名義人は受託者のまま変わらず、不動産の性質が信託財産から受託者個人の財産(固有財産)に変わるだけだからです。これは不動産登記法104条の2第2項2号の権利の変更の登記で、受託者が登記権利者、受益者が登記義務者となります。

この登記の登録免許税の根拠になるのが、令和6年1月10日民二第17号 民事第二課長通知です。もとになった照会の末尾には「信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記申請に係る登録免許税については、登録免許税法(昭和42年法律第35号)第7条第2項が適用される」と考える旨が記され、回答は「貴見のとおりと考えます」でした。所有権部分の税率は1000分の4となります。この1000分の4も登録免許税法7条2項の適用による結果ですから、パターンBでも前記の3つの要件を満たしていることが前提です。

申請するのは3件

| 順序 | 登記 | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 1件目 | 受益者の変更の登記(受益者を長男に) | 不動産1個につき1,000円 |
| 2件目 | 委託者の変更の登記(委託者を長男に) | 不動産1個につき1,000円 |
| 3件目 | 受託者の固有財産となった旨の登記+信託登記の抹消 | 変更分は不動産の価額の1000分の4/抹消分は不動産1個につき1,000円 |

1件目が先に必要なのは、3件目が「受託者=登記権利者、受益者=登記義務者」の共同申請だからです。信託目録の受益者が亡くなった母のままだと、一般承継人による登記(不動産登記法62条)として母の相続人全員に関与してもらう必要が生じてしまいます。

2件目の委託者の変更の登記は、登記研究917号36頁の「お詫びと訂正」で「実際には、委託者の変更の登記申請もされることが通常であると考えられる」と補われたものです。必ず要ると書かれているわけではなく、通常は併せて申請されるものとして扱われています。

登記記録は次のように動きます。

権利部(甲区)(所有権に関する事項)

| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
|---|---|---|---|
| 4 | 所有権移転 | 令和7年1月6日
第1号 | 原因 令和7年1月6日信託
受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| | 信託 | 余白 | 信託目録第1号 |
| 5 | 受託者の固有財産となった旨の登記 | 令和○年○月○日
第1234号 | 原因 令和○年○月○日信託財産引継 |
| | 4番信託登記抹消 | 余白 | 原因 信託財産引継 |

信託目録第1号(受付:令和7年1月6日第1号/予備欄:信託抹消 令和○年○月○日受付第1234号抹消)

| 項目 | 記録される内容 |
|---|---|
| 1 委託者に関する事項 | 東京都新宿区×××丁目×番×号 母
委託者変更 令和○年○月○日第1233号
原因 令和○年○月○日変更
委託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 2 受託者に関する事項 | 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 3 受益者に関する事項等 | 受益者 東京都新宿区×××丁目×番×号 母
受益者変更 令和○年○月○日第1232号
原因 令和○年○月○日変更
受益者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |

パターンAとの違いは甲区5番です。Aでは新しい所有者(二男)が登記名義人として記録されますが、Bでは名義人は長男のままで「受託者の固有財産となった旨」だけが記録されます。実質は変更の登記ですから、登記識別情報(従来の権利証にあたるもの)は新たに発行されません。信託の登記のときに受け取った登記識別情報は、引き続き保管が必要です。

この手順は「信託目録から帰属権利者が読み取れること」を前提にしている

ここが最終回でいちばんお伝えしたい点です。

民二第17号通知の照会事例では、1件目の受益者の変更の登記を受理して差し支えないとされた理由として、信託目録の記録から受託者が受益者とみなされることが明らかである、という点が挙げられています。裏を返せば、信託目録を見ただけで「信託が終わったら受託者本人が財産を受け取る」と分かることが、この手順の出発点です。では、読み取れない信託目録とは、どんなものでしょうか。

信託目録に「公正証書第○条記載の者」とだけ書いてあったら

こんな信託条項を見たことはありませんか。

本信託が委託者の死亡により終了したときの残余財産の帰属すべき者として、令和7年8月1日東京法務局所属公証人○○作成同年第○○号不動産等管理処分信託契約公正証書第20条第1項記載の者を指定する。

これでは、信託目録を見ても誰が帰属権利者なのか分かりません。登記は権利関係を第三者に公示する制度ですから、条項番号の引用だけでは公示として働かない、というのが実務での受け止め方です。

前の節のとおり、信託終了時の手続きは信託目録から帰属権利者が読み取れることを前提に組み立てられています。読み取れないまま信託終了を迎えると、まず信託目録の更正の登記(登記事項の錯誤や遺漏を訂正する登記。不動産登記法2条16号)を求められることがあり、余計な手間と費用が発生します。第2回でお伝えした「信託目録の記載は具体的に」というルールは、20年後の登記のためのものなのです。

補足:委託者兼受益者の住所が変わったとき

信託期間中によくあるのが、委託者兼受益者になっている方の住所変更です。同じ人の住所が変わっただけなので1件でまとめられそうですが、登記の目的を「委託者及び受益者の住所変更」とし一括申請することはできない、と元登記官の横山亘氏は解説しています(横山亘『信託に関する登記〔第3版〕』テイハン、2026年、565〜566頁)。1件目に委託者の住所変更、2件目に受益者の住所変更と、別件で申請します。登録免許税はいずれも不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一一(十四))。

シリーズ総まとめ|民事信託の登記 3つの鉄則

4回を通じて見えてきたのは、次の3つです。

鉄則1 登記は正しく、迅速に
信託財産に属する不動産について信託の登記をすることは信託法上の義務で、信託行為の別段の定めによっても免除できません(信託法34条1項1号・2項)。「登記の留保」は避けなければなりません。

鉄則2 信託目録は「将来の登記」から逆算して書く
信託設定時に何を書くかが、10年後・20年後の登記の成否を決めます。変更時・終了時に必要な情報を、抜け漏れなく、かつ過剰にならないように記載する。ここが専門家の腕の見せどころです。

鉄則3 登録免許税は設計段階から意識する
7条2項が使えるかどうかで、税率は0.4%と2%、5倍の差になります。課税標準は売買価格ではなく、固定資産課税台帳に登録された価格(固定資産税評価額)を基礎とします(登録免許税法10条1項、同法附則7条)。評価額3,000万円の不動産なら12万円と60万円で48万円の差、評価額1億円なら40万円と200万円で160万円の差です。設計次第で、数十万円から数百万円の開きが生じます。

このシリーズでお伝えしたかったのは、結局のところ「登記して終わりではない」ということに尽きます。家族信託は10年、20年と続く長期プロジェクトで、契約書を作った時点の判断が20年後の登記の手間と税額を決めます。契約書の作成だけでなく、その後の変更・終了の登記まで見据えて伴走してくれる専門家を選んでください。

全4回を最後までお読みいただき、ありがとうございました。信託の登記についてご不明な点がありましたら、下記のプロフィールページからご相談ください。

ちょこっと体験談|地積測量図も見ておく

委託者の希望で、信託終了時に不動産を売却し現金化してから帰属権利者に渡したいという相談がありました。

不動産の地積測量図を見てみると、前面道路に接道していないように見えたため、知人の土地家屋調査士に相談したところ、なぜか数十センチ前面道路に接道していませんでした。

結局、前面道路(私道)を道路の所有者に分筆してもらい、道路の一部を売買により取得することになりました。

信託財産に不動産が含まれている場合は、将来の売買や相続に備え、地積測量図等も確認した方が良いでしょう。

お断り 民事信託は現在も過渡期にあり、法務局・税務署の取扱いは変化します。現場レベルでも取扱いが異なる場合があります。本コラムの内容は、法務局、税務署の統一見解ではありません。最新の情報等をご確認の上、ご検討いただきますようお願いいたします。

参考にした法令・資料

  • 登録免許税法(昭和42年法律第35号)7条2項・10条1項・附則7条・別表第一一(二)イ/ハ・一(十四)・一(十五) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
  • 信託法(平成18年法律第108号)34条1項1号・2項、183条6項 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
  • 不動産登記法(平成16年法律第123号)2条16号・62条・97条1項・104条・104条の2第2項2号 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
  • 令和6年1月10日民二第17号 民事第二課長通知「信託財産を受託者の固有財産とする旨の登記の可否について」(登記研究915号139〜144頁)
  • 「お詫びと訂正」登記研究917号36頁
  • 平成29年6月22日付 東京国税局審理課長回答「信託契約の終了に伴い受益者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」 https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/sonota/03/index.htm
  • 平成30年12月18日付 名古屋国税局審理課長回答「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」 https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sonota/181200/index.htm
  • 横山亘『信託に関する登記〔第3版〕』テイハン、2026年、565〜566頁

民事信託の登記シリーズ(全4回)

この記事の執筆者

渡邉 貴宏(わたなべ たかひろ)/司法書士・行政書士・宅地建物取引士

多摩トラスト(東京都小平市天神町二丁目22番1号201)代表。認定司法書士・民事信託士として、民事信託(家族信託)と国際相続を専門に扱う。一般社団法人民事信託推進センター マンション支援信託推進委員会 委員。

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