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信託期間中の登記手続き|信託不動産の売却・受託者の交代・受益者と委託者の変更

信託

執筆者: 渡邉貴宏

監修者: 浦松 丈二

読了時間:約8分

「信託契約を結んで、登記も済ませた」。ここで手続きが終わったと思われる方は多いのですが、民事信託(家族信託)は10年、20年と続く仕組みです。その間には不動産を売ることも、受託者が交代することも、受益者や委託者が変わることもあります。そのたびに登記が必要で、しかも「誰が申請するのか」は場面ごとに変わります。第3回は、その3つの登記を申請人・添付書類・登録免許税まで見ていきます。司法書士の渡邉貴宏です。

動画で見る(約11分40秒)

この記事の内容は、受託者の交代、単独で申請できるのは5つだけを中心に動画でもご覧いただけます。文字を追う時間がとれないときにもどうぞ。


※ 音声は合成音声(VOICEVOX:ずんだもん/VOICEVOX:四国めたん)です。

信託期間中に登記が必要になる3つの場面

| 場面 | 必要になる登記 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 受託者が信託不動産を売却する | 所有権移転の登記+信託の登記の抹消(同時に申請) | 不動産登記法104条1項 |
| ② 受託者が交代する | 受託者の変更による所有権移転の登記 | 信託法75条1項、不動産登記法100条1項 |
| ③ 受益者・委託者が変わる | 信託の変更の登記(信託目録の記録の変更) | 不動産登記法97条1項1号、103条1項 |

③は実務で「信託目録の変更」と呼ばれますが、法律上の名称は「信託の変更の登記」です。委託者・受託者・受益者の氏名(名称)と住所は登記事項なので(不動産登記法97条1項1号)、変更があれば登記で直します。設定時に信託目録へ何を書いたかが、そのまま手続きの重さに跳ね返ってくる。3つに共通するのはこの点です。

【ケース①】受託者が信託不動産を売却するとき

事例:委託者兼受益者=母、受託者=長男。長男が信託不動産を第三者(買主)に売却しました。信託目録の信託条項には、次の定めが記録されています。

受託者は、受益者代理人の承諾を得て、信託不動産を売却することができる。

所有権移転と信託登記の抹消は「同時」に申請する

不動産が売れると、その不動産はもう信託財産ではありません。この場合、信託の登記の抹消は所有権移転の登記と同時に申請しなければならず、別々に出すことはできません(不動産登記法104条1項)。抹消の部分だけは受託者が単独で申請できます(同条2項)。

登記記録は次のように動きます。

権利部(甲区)(所有権に関する事項)

| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
|---|---|---|---|
| 4 | 所有権移転 | 令和7年1月6日
第1号 | 原因 令和7年1月6日信託
受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| | 信託 | 余白 | 信託目録第1号 |
| 5 | 所有権移転 | 令和8年6月8日
第18001号 | 原因 令和8年6月8日売買
所有者 東京都小平市×××丁目×番×号 買主 |
| | 4番信託登記抹消 | 余白 | 原因 信託財産の処分 |

信託目録第1号(受付:令和7年1月6日第1号/予備欄:信託抹消 令和8年6月8日受付第18001号抹消)

| 項目 | 記録される内容 |
|---|---|
| 1 委託者に関する事項 | 東京都新宿区×××丁目×番×号 母 |
| 2 受託者に関する事項 | 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 3 受益者に関する事項等 | 受益者 東京都新宿区×××丁目×番×号 母
受益者代理人 東京都府中市×××丁目×番×号 長女 |
| 4 信託条項 | 信託の目的 受益者の生活及び療養看護に必要な資金を給付すること
信託財産の管理方法 受託者は、受益者代理人の承諾を得て、信託不動産を売却することができる。
信託の終了の事由 受益者が死亡したとき
その他の信託の条項 (略) |

信託の登記は所有権移転(甲区4番)と同じ順位番号のなかに記録されるため、抹消も「4番信託登記抹消」と相手の順位番号を引きます。抹消した事実は信託目録の予備欄にも記録され、この目録は閉じられます。受益者代理人がいるときは、その氏名と住所も登記事項です(不動産登記法97条1項4号)。

承諾書には印鑑証明書を添える

信託目録に「受益者代理人の承諾を得て売却」と書かれている以上、承諾を得たことを証明しなければ登記は進みません。登記原因について第三者の承諾を要するときは、承諾したことを証する情報が必要だからです(不動産登記令7条1項5号ハ)。その承諾書には作成者が記名押印し(同令19条1項)、押した印鑑についての印鑑証明書を添付します(同条2項)。7条1項5号ハだけが引かれがちですが、印鑑証明書の根拠は19条1項・2項です。

印鑑証明書が用意できないと原則として補正を求められ、承諾書がそろわないままでは売却の登記を完了できません。将来この方が印鑑証明書を出せるかどうかは、信託を設計する段階から見込んでおくべき点です。

登録免許税

| 登記 | 登録免許税 |
|---|---|
| 売買による所有権移転 | 不動産の価額の1000分の20(登録免許税法別表第一一(二)ハ)。ただし土地は1000分の15(租税特別措置法72条1項1号。令和11年3月31日まで) |
| 信託の登記の抹消 | 不動産1個につき1,000円(同別表第一一(十五))。同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受けるときは申請件数1件につき2万円 |

課税標準となる「不動産の価額」は売買代金ではなく、固定資産課税台帳に登録された価格(固定資産税評価額)を基礎とします(登録免許税法10条1項、同法附則7条)。

【ケース②】受託者が交代するとき——申請人は「交代した理由」で決まる

第3回でいちばんお伝えしたいのがここです。受託者が代わったときの登記は、なぜ代わったのかによって申請人が変わります

受託者の任務が終わる理由は、死亡から辞任・解任まで信託法56条1項に7つ挙げられています。新しい受託者が就任すると前受託者から権利義務を承継したものとみなされ(信託法75条1項)、不動産について「受託者の変更による権利の移転の登記」をします(不動産登記法100条1項)。

単独で申請できるのは5つの事由に限られる

不動産登記法100条1項は、受託者の任務が次の5つの事由で終了して新しい受託者が選任されたときに限り、その新受託者が単独で申請することができると定めています。

  1. 死亡
  2. 後見開始または保佐開始の審判
  3. 破産手続開始の決定
  4. 法人の合併以外の理由による解散
  5. 裁判所または主務官庁の解任命令
いずれも、前の受託者に協力を求めるのが難しい場面です。逆にいえば、この5つ以外の理由で交代したときは、原則どおり登記権利者と登記義務者が共同して申請することになります(同法60条)。

辞任と「合意による解任」は共同申請

家族信託でもっとも多い交代は、実はこの5つに入っていません。ひとつは辞任。受託者は委託者および受益者の同意を得て辞任でき、やむを得ない事由があるときは裁判所の許可を得て辞任できます(信託法57条1項・2項)。もうひとつが委託者と受益者の合意による解任で、委託者および受益者はいつでも合意により受託者を解任できます(信託法58条1項)。「そろそろ長男から二男に代わろう」という円満な世代交代は、多くがこの形です。

どちらも100条1項の5事由に挙がっていないため60条に戻り、新受託者を登記権利者、前受託者を登記義務者とする共同申請になります。なお、同じ「解任」でも裁判所による解任(信託法58条4項)は100条1項の「裁判所の解任命令」に当たり、新受託者の単独申請です。

事由別・申請形態の一覧

| 任務終了の事由 | 申請形態 | 申請人 | 根拠条文 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 受託者の辞任 | 共同申請 | 登記権利者=新受託者
登記義務者=前受託者 | 信託法56条1項5号・57条1項2項
不動産登記法60条 | 委託者および受益者の同意が必要。やむを得ない事由があるときは裁判所の許可 |
| 委託者と受益者の合意による解任 | 共同申請 | 登記権利者=新受託者
登記義務者=前受託者 | 信託法56条1項6号・58条1項
不動産登記法60条 | 家族信託でもっとも多い交代の形。100条1項に挙がっていないため共同申請 |
| 信託行為で定めた事由(例:受託者が○歳に達したとき) | 共同申請 | 登記権利者=新受託者
登記義務者=前受託者 | 信託法56条1項7号
不動産登記法60条 | 後継受託者への引継ぎを契約で設計している場合はここに当たる |
| 受託者である個人の死亡 | 単独申請 | 申請人=新受託者 | 信託法56条1項1号
不動産登記法100条1項 | 前受託者の相続人は手続きに関与しない |
| 後見開始または保佐開始の審判 | 単独申請 | 申請人=新受託者 | 信託法56条1項2号
不動産登記法100条1項 | 信託行為に別段の定めがあるときはその定めによる(56条1項ただし書) |
| 破産手続開始の決定 | 単独申請 | 申請人=新受託者 | 信託法56条1項3号
不動産登記法100条1項 | 同上(56条1項ただし書) |
| 受託者である法人が合併以外の理由で解散 | 単独申請 | 申請人=新受託者 | 信託法56条1項4号
不動産登記法100条1項 | 合併の場合は存続法人等が任務を引き継ぐため任務は終了しない(56条2項) |
| 裁判所または主務官庁の解任命令 | 単独申請 | 申請人=新受託者 | 信託法58条4項ほか
不動産登記法100条1項 | 同じ「解任」でも、合意による解任(58条1項)とは扱いが逆になる |

条文は「単独で申請することができる」という書き方です。共同申請の原則(60条)の例外として認められている、という位置づけになります。

受託者が2人以上いる場合の注意点

受託者を2人立てている信託で1人の任務が終了したときは、権利義務を残った受託者が当然に承継し(信託法86条4項本文)、不動産については「権利の変更の登記」をします。この登記も他の受託者が単独で申請できますが、条文は「前項に規定する事由により終了したとき」と限定しています(不動産登記法100条2項)。

「前項に規定する事由」とは100条1項の5事由のことで、辞任や合意による解任は含まれません。その場合は60条に戻り、残った受託者を登記権利者、任務が終了した受託者を登記義務者とする共同申請です。共同受託者なら常に単独申請でよい、と読み違えやすいところです。

登録免許税は非課税。信託目録は登記官が直す

受託者の変更に伴って前受託者から新受託者に信託財産を移す場合の権利の移転の登記には、登録免許税がかかりません(登録免許税法7条1項3号)。任務終了の理由が死亡であれ辞任であれ解任であれ、区別なく非課税です。

信託目録の受託者欄も、自分で直す必要はありません。登記官は、信託法75条1項・2項による権利の移転の登記をするときは職権で信託の変更の登記をしなければならないからです(不動産登記法101条1号)。共同受託者の1人の任務が終了した場合の権利の変更の登記も同じく職権です(同条2号)。別途の申請も登録免許税も不要ということになります。

【ケース③】受益者や委託者が変わるとき

事例:委託者兼受益者だった母が令和8年5月11日に亡くなりました。信託契約には「第二次受益者は二男とする」「委託者の地位は受益権を取得する者に移転する」との定めがあります。委託者の地位は信託行為で定めた方法に従って移転させることができるので(信託法146条1項)、この定めは有効です。受託者は引き続き長男です。

申請するのは受託者。しかも「遅滞なく」

信託の登記の登記事項に変更があったときは、受託者が、遅滞なく、信託の変更の登記を申請しなければなりません(不動産登記法103条1項)。ケース②は交代の理由によって単独申請と共同申請に分かれましたが、ここは理由を問わず、常に受託者の単独申請です。しかも「しなければならない」と義務の形で書かれています。

受益者が亡くなったのに信託目録が古い記載のまま残っていると、その後の登記でつまずきます。第4回で扱う信託終了時の手続きは、信託目録の記録が現状と合っていることを前提に組み立てられているからです。

申請情報の記載例

実務では、受益者の変更と委託者の変更を別件で申請します。

| 項目 | 1件目(受益者の変更) | 2件目(委託者の変更) |
|---|---|---|
| 登記の目的 | 信託目録記録変更 | 信託目録記録変更 |
| 原因 | 令和8年5月11日受益者変更 | 令和8年5月11日委託者変更 |
| 変更後の事項 | 受益者 東京都中央区×××丁目×番×号 二男 | 委託者 東京都中央区×××丁目×番×号 二男 |
| 申請人 | 受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 | 受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 登録免許税 | 不動産1個につき1,000円 | 不動産1個につき1,000円 |

この記載例は法務省が公開している様式ではなく、実務の慣行に沿ったものです。1件にまとめず別件で申請する取扱いも、法令が明文で義務づけているわけではなく、実務上の運用です。

変更後の事項は、住所と氏名を特定して記載します。登記事項が「委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所」とされているためです(不動産登記法97条1項1号)。なお本記事の登記記録例では、実名に代えて「母」「長男」などの続柄を仮に用いています。

登録免許税は「不動産1個につき1,000円」

登記事項の変更の登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法別表第一一(十四))。単位は申請の件数ではなく不動産の個数なので、土地1筆と建物1棟を信託しているなら1件の申請でも2,000円、2件で合計4,000円になります。

信託期間中の登記で押さえておきたい3つのこと

  • 売却——所有権移転と信託の登記の抹消は同時申請。承諾を要する条項があるなら、承諾書と印鑑証明書がそろわないと先に進めません。
  • 受託者の交代——申請人は交代の理由で決まります。死亡など5つの事由は新受託者の単独申請、辞任と合意による解任は共同申請。移転登記は非課税で、信託目録は登記官が職権で直します。
  • 受益者・委託者の変更——受託者が遅滞なく申請する義務を負います。登録免許税は不動産1個につき1,000円。
信託期間中の登記は、そのほとんどが「設定時に信託目録へ何を書いたか」に左右されます。契約書を作る段階の判断が、10年後の手続きの重さを決めるということです。次の第4回では、信託が終わるときの登記と、登録免許税が5倍変わる分かれ目を見ていきます。

信託期間中の登記についてご不明な点がありましたら、下記のプロフィールページからご相談ください。

ちょこっと体験談|3つを同時進行で進める

民事信託の組成にあたっては、以下の3点を同時進行で行っていきます。

  1. 信託契約書のドラフト作成(当事者との打ち合わせ)
  2. 公証人との折衝
  3. 信託口口座開設のための金融機関のリーガルチェック
3つの窓口ではそれぞれの担当者が、それぞれの要望を主張してきます。3者を上手くまとめて、信託契約書を起案する能力が士業には求められます。

また、委託者が高齢の場合は公証役場から医師の判断能力テストの結果を求めるケースもあるので、注意してください。

お断り 民事信託は現在も過渡期にあり、法務局・税務署の取扱いは変化します。現場レベルでも取扱いが異なる場合があります。本コラムの内容は、法務局、税務署の統一見解ではありません。最新の情報等をご確認の上、ご検討いただきますようお願いいたします。

参考にした法令・資料

  • 不動産登記法(平成16年法律第123号)60条・97条1項1号/4号・100条1項/2項・101条1号/2号・103条1項・104条1項/2項 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
  • 信託法(平成18年法律第108号)56条1項各号・同項ただし書・56条2項・57条1項/2項・58条1項/4項・75条1項・86条4項・146条1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
  • 不動産登記令(平成16年政令第379号)7条1項5号ハ・19条1項/2項 https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
  • 登録免許税法(昭和42年法律第35号)7条1項3号・10条1項・附則7条・別表第一一(二)ハ・一(十四)・一(十五) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
  • 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)72条1項1号 https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
  • 国税庁「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」(令和8年4月) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0020003-124_01.pdf

民事信託の登記シリーズ(全4回)

この記事の執筆者

渡邉 貴宏(わたなべ たかひろ)/司法書士・行政書士・宅地建物取引士

多摩トラスト(東京都小平市天神町二丁目22番1号201)代表。認定司法書士・民事信託士として、民事信託(家族信託)と国際相続を専門に扱う。一般社団法人民事信託推進センター マンション支援信託推進委員会 委員。

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