家族信託で不動産を託すなら登記は必須|信託目録の仕組みと登記を留保した場合の3つのリスク
読了時間:約7分
親が元気なうちに実家の管理を子に任せたい、認知症になっても自宅を売れるようにしておきたい——そうしたご相談から民事信託(家族信託)にたどり着く方が増えています。ただ、不動産を信託財産に入れるとき「信託の登記」を省略できないことは、意外と知られていません。この回では、登記簿と信託目録に何が記録され、登記をしないと何が起きるのかを、実際の登記記録例で整理します。司法書士の渡邉貴宏です。
動画で見る(約9分)
この記事の内容は、登記を省くと起きる3つのリスクを中心に動画でもご覧いただけます。文字を追う時間がとれないときにもどうぞ。
※ 音声は合成音声(VOICEVOX:ずんだもん/VOICEVOX:四国めたん)です。
家族信託で不動産を託すと、登記簿の名義は受託者に変わる
民事信託(家族信託)は、財産を持つ人が、信頼できる家族にその管理・処分を任せる仕組みです。登場人物は3人います。
- 委託者(いたくしゃ):財産を託す人(例:親)
- 受託者(じゅたくしゃ):財産を預かって管理・処分する人(例:子)
- 受益者(じゅえきしゃ):その財産から利益を受ける人(例:親自身)
このとき、登記簿上の名義は受託者である長男に移ります。ご相談の場では「うちの家が息子のものになってしまうのか」と驚かれることがありますが、名義が移っても、その不動産は長男が自由に使える財産にはなりません。あくまで「信託財産として預かっている」ものです。この見た目と実質のずれを誰にでも分かる形にするのが、信託の登記です。
信託の登記が担う3つの役割
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 公示 | 「この不動産は信託財産です」と第三者に知らせる |
| 対抗要件 | その不動産が信託財産に属することを第三者に主張できるようにする(信託法14条) |
| 分別管理 | 受託者個人の財産と信託財産を分けて管理する義務を果たす(信託法34条1項1号) |
特に3つ目が重要です。信託法34条1項1号は、信託の登記ができる財産について、分別管理の方法そのものを「当該信託の登記又は登録」と定めています。不動産については、登記をすることが分別管理だということです。そして同条2項は、信託行為(信託契約)に別段の定めを置いてもこの義務は免除できないと定めています。「登記はしない約束にしておく」という選択肢は、法律上ありません。
登記簿には「所有者」ではなく「受託者」と記録される
名義が子に変わるという一点だけを見ると贈与や売買と同じに思えますが、登記簿の記録はまったく別物です。信託の登記は所有権の移転の登記と同時に申請しなければならず(不動産登記法98条1項)、記録はこうなります。
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
|---|---|---|---|
| 4 | 所有権移転 | 令和7年1月6日
第1号 | 原因 令和7年1月6日信託
受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| | 信託 | 余白 | 信託目録第1号 |
注目したいのは2点です。
① 権利者の欄が「所有者」ではなく「受託者」になっている——その不動産が受託者の固有財産ではないことが公示されます。
② 所有権移転の下に「信託」の登記が続き、「信託目録第1号」という番号が記録される——信託の中身は甲区に書ききれないため、信託目録にまとめられます。
共有持分だけを信託したとき
自宅を親子で共有している場合など、持分だけを信託することもあります。その記録例です。
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
|---|---|---|---|
| 4 | 母持分全部移転 | 令和7年1月6日
第1号 | 原因 令和7年1月6日信託
受託者 東京都調布市×××丁目×番×号 長男
(受託者持分2分の1) |
登記の目的が「母持分全部移転」となり、権利者の欄に「(受託者持分2分の1)」と、どの持分が信託財産なのかが記録されます。長男が固有財産としての持分も持つ場合に、両者を区別するためです。
信託目録という「もう一つの登記簿」
信託目録は、信託の内容を詳しく記録した、いわば信託専用の登記情報です。登記官は信託の登記をするときにこれを作成し、目録番号を付けます(不動産登記規則176条1項)。記録する事項は、不動産登記法97条1項が1号から11号まで定めています。
先ほどの甲区に対応する信託目録は、次のとおりです。
信託目録第1号(受付:令和7年1月6日第1号)
| 項目 | 記録される内容 |
|---|---|
| 1 委託者に関する事項 | 東京都新宿区×××丁目×番×号 母 |
| 2 受託者に関する事項 | 東京都調布市×××丁目×番×号 長男 |
| 3 受益者に関する事項等 | 受益者 東京都新宿区×××丁目×番×号 母 |
| 4 信託条項 | 「信託の目的」以下、信託の目的・信託財産の管理方法・信託の終了の事由・その他の信託の条項が続く |
4番の信託条項には、信託の目的(例:委託者の安定した生活の支援)、信託財産の管理方法、信託の終了の事由、その他の信託の条項が並びます(不動産登記法97条1項8号〜11号)。なお、受益者の指定に関する条件などを登記した場合には、受益者の氏名・住所の登記を要しないことがあります(同条2項)。
気をつけたいのは、信託目録が誰でも見られることです。登記事項証明書は手数料を納めれば誰でも交付を請求できます(不動産登記法119条1項)。「誰のために、どんなルールで管理される財産か」が第三者にも分かってしまうわけです。家族の事情をどこまで書くかは、第2回で詳しく扱います。
信託の登記をしないと起きる3つのこと
名義変更だけを済ませ、信託の登記をしないままにすると、次の問題が生じます。
リスク1 倒産隔離を第三者に主張できない
信託財産の大きなメリットの一つが「倒産隔離」です。受託者になった子が事業に失敗して破産しても、信託財産に属する財産は破産財団に属しません(信託法25条1項)。信託財産のために負った債務(信託財産責任負担債務)に基づく場合を除き、強制執行や差押えもできません(信託法23条1項)。
ただしこれは、信託の登記があってはじめて第三者に主張できる効果です。登記がなければ、その不動産が信託財産に属することを第三者に対抗できません(信託法14条)。
リスク2 受託者の勝手な処分に歯止めがかからない
信託目録に「信託不動産の売却には受益者代理人の同意を要する」といった定めを記録しておけば、受託者が単独で売却しようとしたときに、登記官の審査を通じて歯止めが期待できます。
もっとも、登記の申請を却下できる場合は不動産登記法25条に限定列挙されており、「信託目録の定めに反する申請」が直接掲げられているわけではないので、「必ず止まる」とまでは言えません。ただ、信託目録に何も記録されていなければ、この歯止めはそもそも働きようがありません。
リスク3 登記の留保は許されない
日本司法書士会連合会が令和6年(2024年)11月付で策定した「民事信託支援業務の執務ガイドライン」は、6頁で次のように述べています。
登記又は登録をする義務は強行法規であり、この義務を免除することはできない。したがって、委託者名義に登記を留保することは許されない。
私は日ごろ、これをひとことで「登記の留保はNG」とご説明しています。「税金がもったいないから登記は後回しに」という発想は、分別管理義務(信託法34条1項1号・2項)に反する対応です。
登記費用の目安|贈与と比べるといくら違うか
信託を設定するときの登録免許税(登記の際に国に納める税金)は、次のとおりです。
| 区分 | 税率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 所有権移転分 | 非課税 | 登録免許税法7条1項1号 |
| 信託分(土地) | 1,000分の3 | 租税特別措置法72条1項2号(令和11年3月31日まで) |
| 信託分(建物) | 1,000分の4 | 登録免許税法別表第一 一(十)イ |
土地と建物で税率が違うのは、建物が高いからではありません。本則は土地・建物とも1,000分の4で、土地についてだけ租税特別措置法による軽減(1,000分の3)が令和11年3月31日まで適用されている、という関係です。
課税標準は売買価格ではなく、固定資産課税台帳に登録された価格(いわゆる固定資産税評価額)を基礎とします(登録免許税法10条1項、同法附則7条)。評価額が土地1,500万円、建物800万円のご自宅なら——
- 土地:1,500万円 × 0.3% = 45,000円
- 建物:800万円 × 0.4% = 32,000円
- 合計:77,000円
同じ不動産を贈与で子の名義にすると、所有権移転の登録免許税は不動産の価額の1,000分の20(2%)です(登録免許税法別表第一 一(二)ハ)。この事例なら2,300万円 × 2% = 46万円で、信託設定時の77,000円とは約38万円の開きがあります。ただしこれは登録免許税だけの比較で、贈与には贈与税や不動産取得税の問題もあります。
信託の登記は「20年後」から逆算して設計する
信託の登記は、通常の相続登記や売買の登記とは考え方が大きく異なります。
- 信託目録に何を書き、何を書かないか
- 将来の変更登記・終了登記まで見据えた条項の設計
- 登録免許税の軽減規定が使えるかどうか
日本弁護士連合会の「民事信託業務に関するガイドライン」(2022年12月16日)でも、弁護士のコーディネーター役についての解説の中で、「信託財産に不動産が含まれる場合には、信託の登記等に関し司法書士に相談することが必要になる」と解説されています(10頁・Ⅱ第6【解説】1)。
全4回のシリーズです。第2回は信託を始めるときの登記手続きと信託目録の書き方、第3回は信託期間中の売却・受託者の交代・受益者や委託者の変更、第4回は信託が終わるときの登記と、登録免許税が5倍変わる分かれ目を扱います。
不動産を含む家族信託をご検討中の方は、下記のプロフィールページからご相談ください。
ちょこっと体験談|詐害信託に注意
民事信託の機能の一つに、倒産隔離機能があります。
個人で事業をされている方などにとっては大きなメリットとなり得ますが、債権者逃れのための信託にならないように注意しましょう。
お断り 民事信託は現在も過渡期にあり、法務局・税務署の取扱いは変化します。現場レベルでも取扱いが異なる場合があります。本コラムの内容は、法務局、税務署の統一見解ではありません。最新の情報等をご確認の上、ご検討いただきますようお願いいたします。
参考にした法令・資料
- 信託法(平成18年法律第108号)14条・23条1項・25条1項・34条1項1号・2項 https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 不動産登記法(平成16年法律第123号)25条・97条1項・2項・98条1項・119条1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)176条1項 https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 登録免許税法(昭和42年法律第35号)7条1項1号・10条1項・19条・附則7条・別表第一 一(二)ハ・一(十)イ https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)72条1項2号 https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 日本司法書士会連合会 民事信託等財産管理業務対策部 民事信託ワーキングチーム「民事信託支援業務の執務ガイドライン」(令和6年11月)6頁 https://www.shiho-shoshi.or.jp/c4b8ab40b728505734ac88e3806935efd5a21761.pdf
- 日本弁護士連合会「民事信託業務に関するガイドライン」(2022年12月16日)10頁 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/civil/minji_shintaku_guide.pdf
民事信託の登記シリーズ(全4回)
- 第1回:家族信託で不動産を託すなら登記は必須|信託目録の仕組みと登記を留保した場合の3つのリスク(本記事)
- 第2回:家族信託の設定時にする登記の実務|所有権移転と信託の同時申請・信託目録に何を書くか
- 第3回:信託期間中の登記手続き|信託不動産の売却・受託者の交代・受益者と委託者の変更
- 第4回:信託終了時の登録免許税は5倍変わる|帰属権利者が受託者本人の場合の登記手続き
この記事の執筆者
渡邉 貴宏(わたなべ たかひろ)/司法書士・行政書士・宅地建物取引士
多摩トラスト(東京都小平市天神町二丁目22番1号201)代表。認定司法書士・民事信託士として、民事信託(家族信託)と国際相続を専門に扱う。一般社団法人民事信託推進センター マンション支援信託推進委員会 委員。

